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42東京での成長の先に待っていた「滑らかな社会との接続」。コンピュータサイエンスを通じて開いた社会への扉。

誰から強要されるわけでもなく、イベントの告知や課題に関するアウトプット、便利な機能を実装し、学生同士助けを求める質問には即時に回答してくれる深田奈穂さん。42東京の学生誰もが知っている圧倒的な存在感をもつ彼女が、今だから笑って話せる10年間の過去を、静かに、とても丁寧に話してくれました。

気づけば不登校に。家で過ごすようになっていった高校時代

ーこれまでの人生、紆余曲折あったそうですね。まずは、どんな高校生でした?

深田奈穂さん(以下:深田):随分昔のことなので。あまり覚えてないんですが、絵を描いたり、家に家族用のパソコンがあったので自作のホームページとかを作ってました。まだダイヤル回線の時代で、使いすぎてよく怒られてました(笑)。当時はゲームが好きで、攻略などの情報を集めるためにインターネットを利用していました。

ーどんなゲームだったんでしょうか?

深田:ポケモンだったかなと思います。赤や緑から始まって、金銀クリスタルまではやり込んでました。

ーそれから高校生活を中断し、家から出られず過ごしてきたということなんですが、どんなふうに過ごしていたのでしょう?

深田:家から出られなくなったのは特にはっきりとした理由がある訳ではなくて、はじめは電車に乗れなくなってしまって、それから親の車でしか外に出られない、というような感じで次第に登校できなくなりました。それから最初はゲームをしたりネットサーフィンをしていたのですが、ゲームを作ってみたいと思い、独学で学び始めました。ゲーム自体を作るのはなかなか一人では難しかったので、HSP(Hot Soup Processer)を使ってゲームユーザーの補助のソフトをネットに公開しました。

ーその後10年の月日を経て、少しずつ外に出て行けるようになっていったんですよね。

深田:そうですね。初めは歩いて近所へ行ったり、電車に乗れるようになって、徐々に外へ出れるようになっていった感じです。

ー初めての仕事も体験したということですが、どのような仕事でしたか?

深田:郵便局の仕分けをやったり、労働体験でスーパーでの勤務を体験してみて、その後はスーパーのレジ打ちですね。

ー働いてみてどうでしたか?

深田:スーパーの仕事も最初は大変で、ビールを箱買いするお客さんがきた時に、持てずに手伝ってもらったりとかもありました(笑)。でも職場環境も良好で、初めて社会に出て役に立てたという感じもあり、嬉しかったですね。社会に出て働くっていうことが、自分にはとてもハードルの高いことに思えていたんですが、外に出てみるとみんな何かしら働いていて、自分もその一員になれたんだなっていう感覚は嬉しかったです。

ー社会に出ていくことへのハードルとおっしゃってましたが、そこまで感じてしまった理由はなんだったと思いますか?

深田:高校を中退してしまって、普通の社会のレールとは外れてしまった感覚というか、そういうものが年月と共に積み上がってしまったような感じですね。

人の役に立ちたくて踏み込んだシステム開発の世界

ーそこからIT企業に就職ということですが、いきなりですか?

深田:スーパーで働く前にIT系の就職プログラムに参加しようとしたんですが、年齢や経歴の都合でダメだったんです。その時のアドバイスもあって、スーパーの仕事と並行してITパスポートと基本情報の資格を取って挑みました。研修を受けて、客先へ出向という形での仕事が初仕事でした。

ー然るべき手筈を踏んで進んでいたんですね。なぜIT企業を受けたいと思ったのでしょうか?

深田:働いてなかった頃に自分が作ったユーザー補助のツールサイトを久しぶりに覗いてみたんです。ダウンロードカウンターをみたら、数千人のダウンロードがあったんですよね。それをみて、ITだったら自分を役立てることができるんじゃないかと思ったのがきっかけです。

ーどのようなIT企業だったのでしょう?

深田:システム開発をしているところに人材を提供するSESと呼ばれてるような会社でしたね。なので請け負った業務を客先に出向いて行うという感じです。

ーどのようなシステムを作る会社だったのでしょうか?

深田:大きく言うと、介護の分野です。センサーなどで留守を管理するような。

ーどのような業務をされていたんですか?

深田:システムの新規開発や保守、アップデート、バグの検証などに関わる感じでした。アップデートの期日までに仕上げるというプレッシャーも大きくて。言語など新しく学ばないといけないこともあって、結構大変でした。

ー初めてのIT企業で、責任重大な職務だったと思うんですが、周りに聞いたり相談できる環境だったんでしょうか?

深田:それが少しばかり知識があることもあって、経験者として入ってしまったんです。同じチームの中でも頼れない場面もあって、頼まれたことは断れず、結構一人で頑張ってやるシーンも多かったです。

ー頼まれたら断れないとあれば、結構無理して頑張ってしまったんじゃないかと思いますが、どうだったんでしょうか?

深田:そうですね。週5で往復2時間以上かけて通勤して、遅くまで働くことなどもあって、ついには体調を崩してしまいました。今思うともっと周りを頼れたらよかったなと思います。

ー頼るのも立派な仕事のスキルですよね。その後は休職した感じですか?

深田:はい。休職して二ヶ月くらいは寝てました。

ーガチ寝ですね(笑)。その後は?

深田:復職は選択しませんでしたが、AtCoderという競技プログラミングを始めました。

ーそんなに早くまた技術の世界へ?それは驚きです。

深田:しばらくは技術関連のものを見るのも嫌になってたんですが、気づけばまた始めてたという(笑)。

ーそこから42東京へ行くことになると思うんですが、どんな流れだったんでしょう?

深田:失業給付が切れそうなタイミングで動き出しました。コミュニケーションを学ぶセミナーに行ったり、そういうところから始めた感じです。就職活動はしてたんですが、なかなか成果が出なかった中、Twitterで42東京のことを知って興味を持ちました。

ー42東京のどのようなところが魅力的でしたか?

深田:ここならコンピューターサイエンスの基礎はもちろん、多くの人とコミュニケーションも取れそうだし、前職で苦手としていた他者への説明や、頼ったりすることも学べるかもしれないなと。

勇気出して一歩外に出てみたら、周りはそんなに自分を見ていないし、「意外とやれた!」というような体験を積み重ねた

ー42東京のカリキュラムはいかがでしたか?

深田:42東京がスタートするタイミングとコロナがほぼ同時期だったんですが、入学試験であるPiscineの後、入学前にハッカソンがありました。たしか「これからの42東京」というような内容のお題だったんですが、その時のことがとても印象に残っています。

ーハッカソンではみんなどのようなアウトプットを発表していましたか?

深田:コロナでオフライン開校ができない状態に際して、42東京をよくするための問題解決の仕組みを発表し合うというようなものでした。オフラインに近い環境をWEB上に作ろうとする試みや、ボイスチャットの内容を文字起こしする仕組みなどを発表しているチームもいました。私たちはDiscordでのやりとりが増えていくこともあって、質問がしやすくなるDiscord botをはじめ、主にDiscordでのやり取りの問題を解決する仕組みに取り組みました。

ー意外なところで深田さんが昔やっていたユーザー補助的な動きがここにも活きていますね。Piscine合格後も課題をクリアしながら、並行して校内の課題解決の為の取り組みを続けていると聞いています。それはどのような取り組みですか?

深田:オンラインでの学習になって皆の進捗が分かりづらいという問題があったので、それを分かりやすくする仕組みや、質問しやすい仕組みを提供したりしました。イベント登録を忘れないようにするための「レジスター警察」というリマインドシステムがあるんですが、それを前任者から引き継いでアップデートしながら運用しています。

ー仲間にはだいぶ感謝されているのではないでしょうか?

深田:問題が解決していったり、仲間からフィードバックがもらえるのは嬉しいですね。就職活動も忘れてかなり没頭していたと思います。

ー休職からの復活も42東京に入学してからの活躍も、深田さんが頑張れる、その根っこにある情熱はなんでしょうか。

深田:(深く考え込んで)元々は全然外に出れない生活だったんですが、でもずっと同じことをしてるとだんだん飽きてくるんです。そうした中、勇気を出して少しずつでも一歩一歩外に出てみたら、周りは自分が意識するほど自分を見ていないし、「意外とやれた!」というような体験ができて、そうした体験を積み重ねてるという感じです。42東京でも、努力をしなければいけないとしんどいので、できるかも?って楽しみながら、小さな変化を積み重ねたいという気持ちでいます。

42東京と協賛企業のタッグだからこそ実現した、社会との滑らかな接続

ー今は42東京での活動と並行してインターンに挑んでいると伺いました。42東京に入ってからは就職活動にはあまり前向きではなかったとおっしゃっていたので、心境の変化を伺いたいです。

深田:インターンは、実は完全に成り行きなんです(笑)。協賛企業主催のチューニングコンテストをはじめ、それに続くいくつかイベントのなかで、軽い気持ちでエントリーしたら、選考に残っていました(笑)。42東京が楽しかったのと、両立がむずかしいというのがあって、あまり就職は考えてなかったんですが、2年も学生をやらせてもらっているので、そろそろ稼がないとなとも思っていたところでした...。

ーチューニングコンテストがきっかけだったとありましたが、コンテスト自体は成績はいかがでしたか?

深田:それが結果は振るわずでした。チームメンバーを巻き込む力が足りないなと、新たな課題にも気づけました。

ー先ほど前職では、質問したり説明したりといったコミュニケーション力の課題があった話をしていましたが、今回のインターンではいかがですか??

深田:42東京での学習経験がなかったら、今のインターンでの活動は絶対できなかったですね。インターンではメンターに相談もできますし、メンターでもわからないことは、別の方に繋いでいただいて相談することもできます。一緒にインターンに挑戦している仲間もいます。いろいろなコンピューター言語がありますが、通底している思想や考え方のようなものがあり、そうした基本的な概念を理解する上でも42東京での学びは活きていると感じます。

ー協賛企業側もコンテストの結果だけでなく、42東京の学びそのものに魅力を感じてくれているのかもしれませんね。深田さんにとって協賛企業というのはどのような存在でしょうか?

深田:42東京は知名度で言ったら現在はそこまで大きいものではないと思います。でもそんな中、42東京の取り組みを知ってくれていて、今の自分を評価してくれるというのはとても心強いですね。そうした企業が主催したコンテストがあったから、私自身滑らかに社会と接続することができたと思ってます。

ー年齢や学歴や経歴ではなく、今の深田さんをみてくれていたということですね。深田さんは現在、データの可視化に興味があると聞きました。

深田:データを検証して可能な限り正しいレポートを返すことで、役に立ててもらうというのは、嬉しいことと感じましたし、意外にも楽しいとも感じました。

ー今のインターンでもそうした業務に携わっているのでしょうか?

深田:インターンでは、ドキュメントやログをひたすら睨めっこして、コードを修正したり実装したりが中心です。ただ、いずれはデータを扱うような業務にも携われたら嬉しいです。

ーもしも就職をして、エンジニアとして働くとなった場合、どんな自分になりたい、どんな仕事をしたいというビジョンのようなものはありますか?

深田:どちらかというとトップをひた走るエンジニアというよりは、トップの後ろを伴走して補助したり、問題を解決したり、データを利用して周りをサポートするというような仕事が楽しそうだなっていう思いがあります。

ーインターンを通して深田さんの新たな冒険が始まりそうですね。稼いだ暁には何がしたいですか?

深田:新しい開発用パソコンが買いたいです!

ー極めて現実的な目標!就職、本気で考え出していますか?

深田:そうですね。今はまだ、どんな会社が自分にあっているか見極めながら、自分に自信をつけて行きたいです。ただ生々しい話で恐縮なんですが、そろそろシンプルに会社の役に立ってお金を稼ぎたいです!

家族に連れて行ってもらったカフェで食べたケーキの味

ー42東京の課題にインターンにと、日々忙しいと思いますが、空いた時間はどのように過ごしていますか?

深田:カフェ巡りですね。

ー意外です!ゲームはもうされてないんですか?

深田:昔たくさんやったのと、やりすぎると生活が破綻してしまうので(笑)。

ーなるほど(笑)。ゲームと打って変わってリアルな体験を楽しめているようですね。「カフェ巡り」という趣味を持つきっかけはなんだったのでしょう?

深田:昔、家から出れなかった頃、家族が無理やり外へ連れ出してくれたんです。その帰りに入ったカフェで食べたケーキが本当に美味しくて...外の世界にはこんなにも美味しいものがあるのかと感動しました。家ではなかなかそんな体験はできないので。今は外に出られるので、外出や散歩するたびにいろんなカフェに行ってます。

ー10年ぶりに外で食べたケーキの味が今の深田さんを突き動かしてるのかもしれませんね。他にはありますか?

深田:食べたことないものを食べに行くのが好きです。食べたことのない物ならなんでもいろいろ。

ー先ほど、深田さんの根っこにある情熱について聞きましたが、最後の最後で深田さんの本心に触れられた気がしました。食べたケーキの数が、一歩一歩外へ出て学んできたご褒美であり、冒険の証です。これからどんなふうにその冒険や興味の幅を広げていくのが楽しみですね。

深田:休みの日にはカフェ巡り。それに飽きたら、今度は美術館巡りとかしているかもしれません(笑)。少しずつ遠くまで歩けるようになって、それを積み重ねる中で、気づけば周りからも頼られるという存在になっていけたら嬉しいです。

深田 奈穂(Naho Fukada)
2020年6月、42東京の開校当初から在籍する学生の一人。自身の課題対応の側、コミュニティの補助や問題解決のための仕組みづくりにも力を注ぐ。実直で丁寧な性格と問題解決に向ける努力は42東京の学生たちからも頼られる存在。2022年4月に行われた協賛企業主催のコンテストをきっかけに、現在同企業にてインターンシップに参加中。
当面の目標は、会社の役に立って稼ぐこと。今の趣味はカフェ巡り。好きなことは甘いものを食べることと、食べたことのない物を食べること。
Twitter:https://twitter.com/nafuka11
GitHub:https://github.com/nafuka11
はてなブログ:https://nafuka.hatenablog.com/archive


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取材・執筆:中野陽介

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